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制度ではなく、使い手の資質とプロセスに問題ありだから

 朝日新聞 「住基カード「一本化」決裁 説明は一切なし」 (2008.7.18)
 朝日新聞 「住基カード「併用制」に 高山市が釈明」 (2008.7.19)
 毎日新聞 「高山市:図書館カード発行停止 住基カードに利用機能付加、批判強く再開 /岐阜」 (2008.7.19)
 読売新聞 「図書館カード 発行停止撤回 高山市 住基併用選択制に」 (2008.7.19)

 読売新聞の市の説明に「図書館を管理する市教育委員会と、市教委から事務を委任された市民部」とある。
 なんじゃそりゃ?と思い市の条例規則を再度探ると、「高山市教育委員会の権限に属する事務の一部の委任及び補助執行に関する規則」第2条により、図書館に関する事務は「市長の事務を補助する職員に委任する」とある。確かに移管じゃなくて委任ですな。あれですか、文科省に問い合わせたら移管すると前回指摘した「公立図書館」でなくなるという見解があって、委任という形にしているのでしょうかね?
 でも、図書館に関する条例規則は明らかに市長に権限がある書き方になっていますけど。委任規則では、図書館事務は「市長部局の職員」に事務を委任しているのであって、市長に対して権限を委任している訳じゃないんだから、教育委員会施設と言い張るには図書館条例・規則がおかしいんでないかいな?(そもそも委任規則の根拠である地方自治法第180条の7を見れば、あくまで首長部局の職員に事務の一部について委任することができると書いあるだけで、首長に権限を委譲・委任できるとは読めないと思われです)

 …まぁいいや、法規のテクニックは私も苦手なんでこの話はここまでとして、(少なくとも実質的には)市長部局に移管されたと考えることにします。

 で、住基カードの話。事は単純に市長が自治省出身だから、というだけのことなのでしょうが、私が気になったのは、この図書館が市長部局に移管された時期に重なることと、指定管理者制度(指定管理者はTRC)が導入された図書館であるというところ。と書くと、左の人が同意してしまうかもしれないが、別に私は住基カードを図書カードに使うことも、指定管理者制度も、それ自体を否定している訳ではないですので、念のため。

 今回の問題は、地方自治体が自らの条例規則を改正することなく、議会に対しても(意図的であれば"小賢しく")説明を省略したというプロセスであり、住基カード導入によるメリットから説かなかったというところにある。住基カードにより利用者は身分証の別途提示、図書カードの更新、住所変更の図書館への届出などの手間が軽減されるし、図書館側は(表立っては言えないだろうが)督促作業が効率的になろうというもの。もちろん、それでも住基カードにするか否かの選択の余地はあってしかるべきだとは思いますけど。

 市長部局に移管されてのことという点は、まぁ今回のは小さい話なんだけど、教育委員会から切り離されることにより図書館に対する政治的介入の可能性が高まることは証明された気がする(以前書いた「『市民の図書館』と「これからの図書館像」、経済界が望む図書館はどっちだ?」の後半に、経済界や一部の政治家が教育委員会不要を唱える理由らしきことがありますが、つまり今回の社会教育を首長部局が所管できるようにするというのは、教育委員会の弱体化に向けた布石なのだと思う)。もちろん、これも首長次第ということで、やる気のない教育委員会でだらだら図書館を運営するぐらいなら、真っ当な首長の元に移管した方がよかろうという図書館はたくさんあるだろうけど。
 あと、指定管理者制度にしたって、関係者(TRC側か市側かも不明だが…)の「市の方針に従うしかない」というコメントがあるが、いずれにせよ建前の指定管理者と市が対等なんて嘘っぱちという実情がよく出ている。本来であれば、住基カード導入の意向が市にあれば指定管理者と協議して決定するべきなんだよね。(…でも規則にゃ市長がカードを発行するってなっていたから、カード発行は指定管理業務ではないのか?)

 最後に現実的な観点で言えば、図書館が首長部局に移管されると、多くの図書館は、指定管理者制度の導入、数値的成果に基づく評価、予算削減、そして政治的介入の圧力に晒されることになり、総じて公立図書館は理念的・体制的弱体化へと突き進む結果になるでしょう。制度的な欠陥云々ではないにせよ、首長部局への移管に対しては業界としてもこういう観点からの検証と対応は必要なんじゃなかろかなぁ…今回の件に対しても表立った反応が業界団体からないというのは気になります(まぁ、あったとしても住基カード反対ぐらいだろうけど)。