No.447の記事

貸出履歴だけじゃない、俺の複写申請書だって漏洩してくれるなよ、とかなんとか

 ・かたつむりは電子図書館の夢をみるか
  「貸出履歴の利用についての疑問(一歩間違うと絶望)」

 公共図書館の貸出履歴保存は業界のタブー、ってなことをかつて同僚司書から聞かされたことがある。個人の思想信条を記録することに繋がるとかなんとかありきたりな理由しか聞かなかったが…

 私も公共図書館業界の過去話はあまり詳しくはないので具体的に何がどうなってそうなのかは説明できないが(図書館システムありきの話なのでその導入前後に何かあったのだろう)、確かに業界内にはそういう空気が存在しているために、個人の貸出履歴を分析してサービス改善や評価にフィードバックするとかという発想は今なお生まれないのだろうと思う。知る範囲においては、せいぜい利用者の性別・何十代レベルの年齢層・市町村単位の居住地と資料(それも分類番号ぐらいか?)をマッチングさせたぐらいの利用統計まで。現に今回の練馬区立の目的だって資料毀損・汚損対応であって、一定期間後には情報削除ということだし。なので今回は練馬区立の事例は棚上げし、ある程度の期間にわたり履歴を保存しそれを図書館側が活用することについて書いてみる。

 何故公共図書館は貸出履歴を保存したがらないのかってのはリンク先のリンク先を見ていただくとして(←どんだけ丸投げだ)、さて図書館職員から利用者の思想信条やら個人情報やらの漏洩云々が心配だからという理由を堂々と表明されると、図書館では情報管理体制が不十分だから漏洩するかも(内部からの漏洩もそうだが、図書館が端から権力に屈服することを前提にされちゃあね…)、だから履歴データを消去してリスクを低くしてるんです、でも貸出中のは返却まで事務処理上必要だから致し方なく情報保持してますけどね、と宣言されているようで、利用者にしてみれば何と心許ない体制だと写るだろう。
 漏れて困るのは貸出中も過去も同じこと。私だったらそんなところに自分の住所、氏名、電話番号すら保存されるのはまっぴらなので、貸出以前に絶対に利用者登録をしない。

 また貸出履歴ばかりセンシティブになってるけど、閉架書庫資料の閲覧(←すべての館ではなかろうが)や、資料複写(←こっちはセルフコピー方式なら必ず…のはず)など申請書を書かなければならないサービス利用は他にもあるが、これらの住所、氏名、資料名を書いた申請書も利用終了後即座に破棄しなければ取り扱いに整合性がないのだが、果たしてそこまでしているだろうか。他の公文書同様、一定の保存期間の後に廃棄するのが基本ではなかろうか。
 であれば何故、貸出履歴だけ特別に削除し保護されてるのか、どうにも不思議でならない。

 更にシステム的な面から考えると、最近はネットで貸出予約や貸出中資料の確認、またメールで予約資料の返却通知や督促、レファレンス受付などを行っている館もあるが、暗号化などの対策を講じていたとしてもインターネット上でのこうしたやりとりは、貸出履歴削除を行わなければならない程度のセキュリティレベルに照らせば「アウト」だろう。利用者番号とパスワードでウェブ上で簡単にログインできるシステム、また途中どこで誰に見られてもおかしくないネットメールを介しているんだから(この場合、利用者番号やメールアドレスと利用者本人との照合情報が必要であるという反論はあるかもしれないが、番号やメルアドそのものが個人情報になり得るからねぇ…)。

 図書館の外に目を向ければ、例えば市役所には市民の年収や犯罪歴などの個人情報が全員分、自動的に収集されコンピュータ管理されていて、更にそのデータ処理は委託業者(に派遣されている派遣元は我々には知らされない)社員が実施している訳で、自治体内で図書館だけ機械的に貸出履歴データだけを捨てて満足されてもなぁと思う。
 どれだけ個人情報保護条例の制定や業者との情報保護契約の締結をしたところで、意図的・事故的問わず漏洩の危険性はゼロには絶対ならないのだが、自治体は条例や契約に基づいて情報を取り扱うことを担保に利便性の方を取っているケースが多いのが現状なのだろう(本当はその現状に対して社会的な同意が得られているのかとか色々検証しないといけないが、とりあえずその是非については横に置いておく)。
 であれば、図書館だってまず資料利用履歴保存による利便性を検証してしかるべきであるし、自治体内の他部局とのバランスを考慮して取り扱いを検討するべきだろう。図書館システムを導入し始めた時代から、個人情報を取り巻く社会的な状況は大きく変化しているというのに、いつまでも同じ理由で門前払いや断固反対していては誰も納得しない。特に公共図書館において、やばい情報だからさっさと捨てて「ない」と同じ状態にするという単純思考は、資料保存機能を受け持つ施設としてあるまじきではないか(←もちろん管理リスクを考慮せずとにかく情報を残せと言っているのではない)。

 とは言いつつも、現実に履歴管理とそれに基づくサービス実施、分析を実施しようとしても、いきなり問答無用ですべての履歴を勝手に残すというのはさすがに倫理的に問題があるだろうし、生データのままの利用は条例上の目的外利用となる可能性もあるので、まずは保存方法、期間、活用範囲を詳細に詰めたルールを定めた上で、同意を得られた利用者から始めたら如何だろうか。履歴を残すことによるメリットとデメリットを図書館が中立的に示し、高付加なサービス提供を受けるか情報保護を優先するか、利用者登録や更新時に個々の利用者に選択してもらうとかすれば問題ないと思うが。
 確かにF社やN社のシステムにその機能を付加するにはシステム改修料が結構な額で必要だろうけど(そういうことしない前提でパッケージングされてるから、技術的に簡単なことだが請求額は多くなるだろう…)、次のシステム更新時の検討課題にすれば少しは現実味があろうか。

 しかして検討するにしても、図書館側にどれだけサービスレベルを向上させる気があるんか、今回の話であれば貸出履歴の削除に臍を噛んでいる図書館員がどれだけいるのかいな、と。本音のところでそういう情報活用がめんどくさいから思想信条を名目にして削除しているんだよ、という図書館が多数ならシステム的に実現しても全然意味はないんだけど。んっ、まだそこまで悲観的にならなくてもいいのか…な?