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高知の県立・市立図書館合築を考えてみる

・朝日新聞「図書館建て替え 県・高知市「合築」に」(2010.8.25)
・高知県教育委員会「新しい県立図書館整備に関する報告書等について」(2010.8.25)

 高知の合築については、すでに4,5年前の橋本知事時代から知事と市長の間で案が出ていた話で、それがようやく具体的な計画段階になってきたものです。最近、一部の図書館業界人が騒ぎ出しているようですが、もし今までこの話を知らなかったのだとすれば、アンテナの感度が悪すぎだし、知っててなお荒唐無稽と笑っていたのであれば、ご自身の常識は世間の非常識だったという事を改めて認識してもらいたいところです。

 さて、教育委員会が公表している報告書のうち、県市ワーキンググループによる「高知市立追手前小学校敷地への県立図書館・市民図書館の整備について」が注目に値する内容だと思います、何せカウンター業務や図書館システムも同一とすることを目指しているのですから。実現には、細かい問題が(報告書の指摘以上に)諸々と転がっていることは容易に想像がつきますが、いつも県立図書館についてうるさくしている私としては、この方向は結果として、県立図書館の存在意義を認識する(させる)ための大胆かつ適切な方策になっていると思うのです。もちろん、為政者はもちろん現場の人もそこまでの意図はないとは重々承知ですが。しかし、可能であれば私はこの合築作業とその後の運営に県側から参加したいと、本気で思っているほどです(新館に向けて中年でも可の採用がないかしら)。

 高知県内の市町村立図書館は、高知市民にサービスが偏るとして合築に大いに反対しているそうですが、私にはその理由、根拠が理解できないです。どうせ県立図書館を単独で新築したところで、直接サービスに偏重し、その周辺住民にしかサービスが行き届かない、結果として概ね一番規模の大きな都市である県庁所在地に県と市の二重サービスが起こり、図書館サービスが手薄になりがちな小規模都市や地方には県立図書館の恩恵が何も及ばない、ということは、ここ15年ほどで新築された多くの県立図書館の状況をみれば明らかですけど。そのような主張は、例えば、長崎県立図書館の誘致に躍起になっている大村市のような構図が未だにあるように(大村市は市立図書館が老朽化したから県立図書館で代替させたいという意図で誘致に積極的)、高知県の市町村立図書館関係者ですら県立図書館論なしで、県立図書館をただの大きな図書館としてしか認識していない証左です。むしろ合築により、県には市町村立支援にリソースを割いてもらえるのだから、自館にとってこれほど有利なことはないはずです。一体、県立図書館とは何であると認識しているのでしょうか、と疑問を持たずにはいられません。

 さて、全面的に賛成色を強めた論調になってしまいましたが、最後に問題点も指摘しておきます。まず、カウンターとシステムを1つにするのであれば、登録者情報の扱いが大きな課題となるでしょう。このシステムの登録者情報管理は市、県どちらの責任になり、どちらの個人情報保護条例が適用されるのか…例えば、県所有の資料しか利用していない人の登録者情報を、市職員がアクセスできるとすれば、それは県の個人情報保護条例違反になりかねない。まぁ、登録時に県・市両方の利用者登録になるという承諾を本人に得るというのが安易な解決策でしょうけど。ただ、最近でも岡崎市立図書館で警察に任意に情報を提供したという話もあって(事実なら市の個人情報保護条例違反であることは明白)、このあたりの情報の取り扱いは、より慎重に検討するべきです。

 あと、県と市による資料収集分担と帰属の問題。おそらく、一般の雑誌や新刊は市が購入し、専門性の高いものを県が購入、となるのでしょうが、購入者=所有者のままにしておくと、将来的に高知市の資料を県がせっせと他市町村に頻繁に運搬することになるため、そのうち高知市が財政的に文句を言い出しかねない(高知市の税金で購入したもので他市町村民を利するなという話)。これは、ある程度年数が経って、市立図書館としては廃棄するべき段階になった資料を、無料で県に移管するということをしなければならないと思われますが、物理的な移動が発生しないために、おそらくこの手続きは行われないでしょう。中の人も気づかないであろう問題でしょうが、将来どこかで噴出してくるでしょう。

 しかし、県立図書館にとっての最大の問題は、新館効果(来館者、直接貸出数の大幅増による表面的な成功の一般認知)が望めないことです。県立図書館機能としては成功するでしょうが、県議会では、表面的な成功を高知市に奪われることで、新館にした効果が目に見えないと問題視されるかもしれません。通常であれば教育委員会が「新館になって来館者が○人、貸出数が○点増えた」と答弁することで、運営費や資料費を数年は確保できるのですが、今回のケースでは合築により予算減の口実があらかじめ用意されている状況です。果たして、このような単純な成功数字なしで、県立としての予算を継続的に確保できるのか、実は年々かなり難しくなっていくと予想します。以前、図書館運営には二面性が必要だと書きましたが、その一面がないのは、やはり県立図書館の運営には短期的にはちと厳しいかなぁ、と。

 長々と書きましたけど、個人的には期待を持って推移を見守りたいと思います。

※しばらく更新が停止しておりましたが、個人的に少々忙しくしているためです。またしばらく、放置することになると思います。

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