個別表示

県立図書館の資料直送サービスに一言、二言、三言…

 ・福島民報「遠隔地住民に本直送 県立図書館が導入へ」(2008.3.1)

 「都道府県立図書館」のこういうサービスに対して物言いをする奇特な者として、少し真面目に書いてみようかな。

 まず、これまでの私の書き物を見た方々からは、県立が利用者に直送なんておかしい…という論調を予想されているでしょうけど、市立でも県立でも私立でも、利用者が資料にアクセスする手段は多い方がよいに決まっているので、市立との相互貸借が無くならない以上は、方法が増えて多様性が確保されることには賛成。そこは利用者に対するサービス向上に繋がるからね。

 でもさ、サービスの存在への評価ではなくて、方法論として考えたときに、それはどうかなぁと思うのですよ。

 教科書的に言うと、まず近所の市立で県立(や他市町村や他県や国会図書館)の本が借りられますということが、これほど一般的に浸透していない中での「奇策」は時期尚早ではないかということ。今回のように未だに新聞記事などでは図書館の相互貸借制度がよく「補足」として書かれるが、わざわざ補足しなければいけないほど一般には知られていない、そしてそれを読んで「是非地元の図書館でも実施してほしい」と書かれたブログ記事を散見するのだが、つまりその読者もどこでも実施している一般的なサービスを「特殊なサービス」と捉えてしまっているのが現状。県立も市立も相互貸借のPRが相当不足しているということなのだが、そこを改善せずに県立が直送サービスを始めるということは、どうにも納得しがたい。このままでは利用者は直送サービスのみを報道や広報で知ることになり、料金負担で直送か、無料で市立への相互貸借か、どちらも利用しないかという選択の2番目が生まれないだろうし、結果二択では利用しないに軍配が上がり、図書館利用の促進には大して繋がらないだろう。県立を利用しない理由で「遠いから」と答えた人のうち、相互貸借制度を知っていた割合はどれだけだろう?知っていても開架で本を選びたいからという理由で敬遠している可能性もあるが、そうであれば直送サービスの利用者にはなり得ない。
 まだ市立なら、来館か、直送かの二択になるので効果が期待できるが、県立は市立とは違う。市立が相当貧弱な場合にはもしかしたら成功の可能性があるのかもしれないが、地域が限定される上に、市立を飛び越えたサービスの成功はその市立の更なる衰退を意味するのだが、さて県立としてそれでいいんかいな?と。

 …真面目すぎてつまらなかった?相当な理想論だからね、これは。でもこんなことネットに記すの、自分だけだろうからメモ的に書かせてもらいました。できれば多くの人のお目汚しになってほしいなぁ、という思いも少しはあるのだけど。

 も少しリアルでくだけた話にしましょうか。

 送料は利用者負担ということだが、一番の問題は料金だろう。図書館が利用者から直接徴収するとすれば、送料分の納入通知書を同封して利用者が銀行で納めるという方法になろうが、双方手間がかかりすぎてこれは非現実的。多分、着払いに落ち着くのだろうけど、一般的なサービスで着払いというと「ゆうメール」?何冊かにもよるが、大体送料は片道400〜500円検討か。個別契約で民間業者にしたって大して変わらないだろう。返却も郵送するとしたら、利用者の送料負担は往復で800〜1,000円…高っ!だったらAmazonさんで買いますがな。実際にはいくらで設定するのか分かりませんけど、返却の手間を考えると往復400円でも割高感を生じて購入するに流れる予感が。しかも、そんな安い設定になっているとするならば、送料を一部税金で賄っている可能性が高いので、そのあたりもサービス評価するには重要なファクター、見逃さないように。あと、値段以上に本の返却って思った以上に面倒に感じていると思いますよ、図書館関係者以外は。別に本屋で売っている本だったら本屋で買うよ、という考えは結構一般的だろうし、また無理にそこに図書館が貸出で割って入ろうとする理由はなかろう、本にアクセスする手段は購入でも貸出でもその人が自由に選ぶものなんだから。もちろん本屋が近所にない、またはネット利用ができなくて購入を諦めている人には、図書館がフォローしてあげるべきだけど。

 また、想定ニーズの1つである「本を早急に利用したい」でも、残念ながら公務員の公設システムよりも民間のネット書店の方がサービス(納期、利便性等々)は格段に優れているだろうから、そういう時は値段よりも早い方が重要視されるだろう。値段勝負としても「購入費−図書館の送料」値に対して直送サービスのメリットが超える余地はないのではないかなぁ。品切、絶版、取り寄せの場合は直送サービスにメリットが生じるけど、そのあたりの資料に「早急に」というニーズが常に付随して発生するとはあまり考えにくい。

 それと実際の利用申込方法はどうなるのだろう。利用者がOPACからネットで配送依頼を出すシステムが現実的だろうけど、システム改修にどれだけの予算が必要になるのかも検討しないといけない。感覚で数十万〜百万円単位だろうかな。FAXや電話での受付まで認めると手間が相当かかるから敬遠すると思うけど、でも「県立に来館できない」人を対象とするサービスでOPACのみでは不十分だな、ネットを利用しない(できない)層と県立・市立に来館できない層は重なる率が高いから。まぁネットを利用する人でも県立・市立に来館できない人ってのもいるだろうけど、平日は毎日残業(もしくは午後5時で閉館する市立図書館…ってそれは市立の開館時間が問題だが)、土日も家族サービスやその他の理由で市立には全然行けない社会人と仮定すると(かなり大雑把…)、そもそもそういう人達って来館しないで図書館の本を借りたいのかな?という疑問もあるけど、直送サービス利用するぐらいなら近くの本屋かAmazonさんだろ、経済的にそんなに困窮している層でもなさそうだし、と思うな。もちろん、例えば子育て中で図書館などに出かけにくい親とかにはニーズとサービスが結構マッチングするだろうけど、それって県立がフォローすることかな?市立が気軽に子連れで来館してもらえるようになることが、子供にも親にも市立にもベストな解決策だと思うんだよね。やっぱり、図書館という「場」の力を軽視してはいけないよ、「直接」本を見る効果だってまだまだあるだろうし、それを県立が自館のことだけ考えて放棄するような方針だとすれば、どうにもいただけない。県立も、県内の市立に人が来るような方策ってのをまず考えてみてほしい。

 ということで、今回の直送サービスは資料アクセスの方法が一つ増える事には意義があるものの、費用(システム改修費、職員の手間等々)対効果で評価すると多分利用が少なくて効果が小さすぎる結果になるんじゃないかと予想しておきます。そこまででなくても、県内全域からの利用促進の起爆剤にはならないだろう、と。
 どうにも、県立がサービスフロントとしての役割まで背負ったところで、きめ細かいサービスには程遠いものしか提供できないだろうし、だったら市立の尻を叩く方が効率的で利用者の為になるサービスが実現するのでは、と感じます。もちろん図書館の場合、県立は市立の上位機関じゃないんで、強権的な指導なんてしてはいけないのですけど、一つの建物だけで県全域に直接サービスを展開しようってのは無理があるって。
 どうせなら三重県立の「オンライン予約配送サービス(e-Booking)サービス」のように、利用者がOPACから受取館指定で予約できるシステム組む方が、県全体としては効果有りなんじゃないかな、と思って三重県立のHP見たら…バナー広告が!!うわ、しかもページの上や真ん中に堂々と…特に「大」の方の何と目立つこと。いくらなんでも、利用者向け情報より目立つ広告はいかがなものかいな。って、あれ、矛先が変わってしまった…。

 最後に、このようなサービスが大々的に実現すると実は「地元の」図書館である必要はなくなる訳で、極端な話、国立国会図書館が実施すれば他の図書館は不要に……なんて単純なことではないけど。でも、別に発送元がどこでも利用者にとっちゃどうでもいい話で、例えばネットと郵送によるDVDレンタルで発送元がどこにあるかを気にしている人はあまりいないがごとく(もっとも離島やあまりに遠いところだと配送に時間がかかるかもしれないが…)。今回の場合も地方自治体のサービスとして県民のみがサービス対象になるのだろうけど、公共図書館の場合(特に県立)はすでに居住・在勤制限が撤廃されつつあるし、まして直送サービスは送料の受益者負担さえしっかりなされていれば、どこの住民に対してでもさほどの障害はないのでは。とすれば、国が、もしくは複数の自治体が合同で「直送サービス専用図書館」をドカンと造ればいい(著作権の問題さえクリアできれば民間のビジネスだっていいだろうけど、ベストセラーとマンガ以外はビジネスモデルすら成立しないだろう)…か?そうでもないか。やはり公共図書館はまだ来館者がいて初めて成立する施設なのだろう。でも既存の県立が全国の誰に対しても直送しますぜ、となれば、サービス評価としては上記とは全然違う結果になるだろうなぁ。(えっ、すべての本が電子化されてNDLのサーバから閲覧可能になったら時点で直送サービスなんて考えなくてもよくなるだろうって?ごもっとも。)

※なんだか前半と後半で書いていることがバラバラで矛盾している気がする。あかんなぁ…。