個別表示

司書職(正職員)の冷遇ぶりと一つの改善策を外野から考えてみる

 うちの県の話(しか知らないので一般化できる部分とできない部分があろう)ですが、司書職(正職員)の冷遇ぶりを整理してみる。

・実際の採用者は高学歴(最近では院卒がざら)なのに職種的に短大卒程度
→そもそもの出発点からしてこれだもの。そりゃ確かに司書資格は短大卒で取得可ですが、あまりに現状とは剥離してますな(一部の自治体では大卒程度で採用している)。司書といえば、今や異常なほどの倍率をくぐり抜けなきゃ合格できないのだから、自然と高学歴になってるんだけど。そんなの承知で受験してるだろ、とはいうものの採用時の初任給決めの際に学生期間はあまりキャリアとしてカウントされないとか、その後の人事上の扱いも所詮短大卒程度(以下)であるとかは、募集要項を穴が開くほど見たって分からない、人事委員会に個別に問い合わせたって答えてはくれない、採用後肌で感じて初めて知る仕組みなんだから、本人の責に帰するのはあまりに酷な話。これだけを考えたら確かに上級司書の設置が望ましいと思えますが、正職員司書がざっくざく定員削減されていく現状で、より高学歴職種を新設して採用というのは法的な設置義務がなければ到底考えられない話だよなぁ…。

・短大卒程度なのに昇進などの待遇が高卒以下
→実際の学歴と働きぶりで職員を評価していけば上記の問題は解決するのでしょうが、特にその辺の司書の扱いは酷い。理由はよく分からないけど伝統的にというか、昔から司書は大して昇進させなくてもいいような空気が人事課にはあるらしい。何せ事務職や他職種では学歴に応じて大体何年で昇進というコースがほぼ例外なく適用されるのに、司書ときたら高卒よりも遅い上に個人差が発生している。最近では司書が組合や図書館長を通じて訴えてきたために少しはましになってきたようだけど、結局は県図書館にいる司書にしか影響がほぼ及んでいない。先ほど個人差と書いたけどこれも個人の能力差よりは、昇進しそうなタイミングに県図書館にいるか、上司に恵まれるかという条件差の方が大きい印象を受ける。特に高校図書室にいると校長がよほど上に訴えてくれない限り…だけど校長は当然教員だから事務職の人事に疎い上に関心がない、でも事務室の人たちも各校1人しかいない司書に対して同志の感が薄く組合活動に司書を考慮しない、という構図のせいだろう。中に色んな人がいるのも事実だが、概して司書の方が普通の事務職員よりも懸命に働いているというのに…。結果、退職前になっても管理職になれない、せいぜい管理職手前の県図書館課長で退職ということに。数年前から課長席の一部が管理職扱いになったけど、でも職務権限は以前と同じこと、いきなり来た行政職の館長・副館長の下でという体制は変わっていない。「司書職員」としてのまとまった団体がない(いくつか団体はあるようだけど、教職員組合、県職組合、その他任意団体などに分散してまとまりがない)のも一因だろうけど、だからと言って他自治体の動向を見るとそういう団体が結成されれば解決するとも思えない。

 自分のことでもないのに、書いてて暗澹たる気持ちになってきたな。それでも派遣、非常勤、嘱託で働く者の多い司書業界の中で、正職員で司書なんて相当恵まれているということになるなのだろう。なるのだろうけど、結局正職員・非正職員問わず個人の「図書館が好きだから」の情熱を、不条理なほどの低賃金・低待遇による体のいい労働力搾取にすり替えられている構造に変わりはない。これは本屋のアルバイト賃金が労働内容と比較してかなり低いというのも同じことなのだが、どうも「志望者が多い→優秀な人材を採用できる→レベルの高い仕事をしてもらえる→それに見合う対価を出す」のサイクルが本来成立するはずなのに、雇う側の都合によりどこかで結論が「安い対価で優秀な人材を確保できる」に変質している。この構造はどの職種でも成立するはずなのに、公務員の世界では特定の「司書」職だけに等しく適用され、横では働かずとも高給を貰う事務職・行政職が跋扈している現状はどうしたことだろう。どこで司書は置いてけぼりを喰らったかの検証は必要だろう。

 当然(あまり頭のいい方法ではないが)、事務職扱いなら県職組合のラインで根気よく、他職種との比較によりその不当性を個々の職場で必ず訴えることも改善方法の一つではある。まぁそれにしてもその行動を統一するための組織とリーダー役は必要なのだが、どうも最近の司書はそういう活動は少々苦手のようだ。もちろん組合色を前面に押し出しては今どき効果はなかろうけど。
 でも、その効果は最大の場合でも根本的解決には程遠いだろう。ここからは更に推測的ではあるが、おそらく司書の人事的評価の低さは、社会的な司書の専門性の理解不足に加えて、同一職種で固まった、あるいは真逆に学校で唯一という両極端な職場環境の中で、同一業務をルーチン的に行っている(と思われている)からということもあるのではないか。職種全体を評価する側の人間の目に直接触れる機会がないということは、その業務内容はもちろんのこと、勤務態度や人柄的な部分も含めて理解されないという、司書にとっては非常に不利な状況を生んでいると思われる。「これからの図書館像」には行政支援サービスの狙いとして、役所に対する図書館業務の理解促進も述べられていたと記憶しているが、司書職員そのものの理解も同時に得るべきだろう。となれば、行政支援だけではいささか弱い。やはり司書であっても研修的に図書館や学校以外で事務職として勤務して、予算要求と執行方法、政策立案の手法など公務員として最低限の知識を仕入れつつ、せめて他職種の知り合いも作るぐらいの経験は必要ではないか。もちろん、司書を専門職として採用しなくてもいいという話ではなく、軸足は図書館に残しつつもそういう人事交流ぐらいは積極的に受け入れた方がいいのではないかということ。少なくとも、同職種の枠内でしか働きたくないという態度は、多業務の経験をよしとする事務屋の評価ルールに則れば(その是非は棚上げするが)、結局自身に対して不利にしか働かないのがオチである。

 ここからは公共図書館業界全体に対する意見だが、これは司書が専門職として中途半端に群れをなし、図書館以外で勤務することを極端に毛嫌いしてきた業界特有のツケなのかもしれない。中身の伴わない専門性の主張は、自分たちの首を絞めることに繋がっている。上記の意見は所詮外野の意見であって問題解決のベストでもベターでもないが、少なくとも単なる「正職員の司書を採用せよ」のシュプレヒコールより実効性はあると考えている。

P.S.同様の問題は学芸員にも見られるが、まだ彼らは大卒程度な分、深刻さは司書ほどではない…のかな?

hogehoge 2007年12月06日(木)12:53

学芸員・司書って準アカポス的な位置(ポストの倍率、応募者のレベル)にあると思いますが、条件のよい職場とはいかないのはきついですよね。まあ採用されれば安定しているというだけでも、非常勤やバイトの不安定雇用からは脱することができるのでまだよいと採用される側も思っているんじゃないんでしょうか?
研究職を諦めて実務家として司書を選択したとき、倍率・待遇・職務内容の点で他の分野(例えば家裁調査官)に比べてどんなものかなというところが気になりました。

tohru 2007年12月06日(木)19:22

コメントありがとうございます。最近は司書も学芸員も正職員は倍率すごいですからね。倍率の高さと合格の難易度が比例してるかどうかは分かりかねますが(資格は簡単に取得できますし…)、実際のところ合格者の高学歴化はすすんでいるようで、学歴と試験結果は比例関係性が強いと思いますが、さて実際に働いてみてどうかというのは別問題で。どのみち、人事評価を学歴や職種ではなく、単純に職務上どれだけの能力を発揮しているかですれば何の問題もないのでしょうが、大きな組織ほどそのセクション内での相対評価になりがち。例えば司書なら司書全体のレベルは他の職種よりも高いと思いますが、一律所属内で上位○%がA評価、次の○%がB評価、的な感じで評価されてしまいますし、本人の学歴よりも職種単位で資格の学歴レベル(司書なら短大卒という具合)で簡単に括られますからね(もちろん自治体や会社によって様々でしょうけど)。
私は自分のとこぐらいしか内情を知らないので他との比較については何とも言えませんが、採用されねば分からない内情というのが多かれ少なかれどの職にもあると思いますので、事前にできるだけ目に見えない情報の収集に努められた方がいいでしょう。ただ、公共図書館の司書業務は決してアカデミックでないことだけは確かです。大学図書館の職員なら(大学によりけりでしょうが)結構アカデミックな部分がある気が…

hogehoge 2007年12月07日(金)00:51

返答ありがとうございます。
私自身は司書資格もなく別分野のものですが、司書のイメージとしてバタイユのような人を具体的に思い浮かべていたので、研究もできるのかと思ってしまったのですが、おっしゃるように大学図書館もしくは国会図書館クラスでないとそういった余地はなさそうということですね。
次善の職としての司書は、完全に実務家として働く道ということになりそうですね。図書館情報学専攻の人からすればどういう風に写るのだろうかと。