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図書館民営化と公共性の議論に水を差してみる

 何がきっかけか、はてブなんかを軸に標題の議論が色んなブログで盛り上がっているようでありまして(うちのような地味系blogにもリンク張って貰ったり、トラバして貰ったりしてもろてます。皆様、どもども)。こちらのHebiさんのがこの件についてよく纏まったリストになっとりますのでご参考に。

 で、ほうぼう斜め読みさせていただきましたが(ごめんね、こらえがなくて深く読まないまま斜めにしたところがあるの…)、図書館民営化(ほんとは指定管理者制度は民営化というよりも委託に近い形態なんだけどさ、なんか議論が民営化に一足飛びになってるので、ここでは敢えてごっちゃにしておく)賛成、反対意見双方に突っ込んで、両者から嫌われてみようかと思う次第で。

 まず反対派(主に現役図書館員)は乱暴にまとめると、『市民の図書館』的図書館を根底にして図書館の公共性を訴えておられるようですが、しつこくいつものように意見を述べると、どうしてこの人たちは、『市民の図書館』的運営が図書館の公共性を危うくさせたというのに、図書館の公共性を反対の論拠にしてるのかなぁ。だから議論は賛成派の方が明らかに論理的で一見筋が通ってるんだよな、と感じました。つまりね、賛成派(主に非図書館員)の図書館に対する認識(図書館ってのは税金で本買ってタダ貸しするところなんだー、って感じのもの)ってのは、30年以上脈々と続いた反対派の図書館運営がせっせ、せっせと作り出して一般に植え付けた認識そのものだというのに、ここに公共性がないという指摘がなされた時に論にならないものまで持ち出して感情的に反対しているという、実に「自分で自分の首を絞めた」構図になっているということを指摘してみたり。だから、図書館の公共性や司書の専門性を主張したいのなら、少なくとも『市民の図書館』から脱却し、あなた方が強く抵抗している「これからの図書館像」に転換してからでないとお話にならん思うのだけど、この殻は一向に破られる気配はないので、今のところこの議論に反対派の勝ち目はないと確信しているのだ。

 上記のような反対意見はここで置いといて、じゃ賛成派の意見というのはどーなんかいなというと、どっかのコメントにもあったけど公共図書館に収入という概念を持ち込むのはちょっと早いというか、乱暴というか、まぁ飛躍し過ぎだね。図書館法(無料の原則)や著作権法(貸与権の問題)の壁があって図書館運営は収入に結びつかないようになってるからね、一応。公共図書館でなくとも、収入見込めるならとっくに利益追求型の私設図書館がたくさんできてるはずだけど、本で言えばせいぜい貸漫画屋ぐらいやね、成り立ってるの。たぶん、漫画を除くとベストセラー本でも採算取れないということじゃないかな(この辺、世間知らずなので違ってたら指摘してくだされ)。で、だから図書館には公共性があると私は捉えるのだけど、反対にだから図書館は不要とも捉えることができる話でね、これ。この分かれ目が「図書館とは何ぞや」の認識の違いだから、まずこれについて賛成派・反対派で摺り合わせしないとまともな議論にはならないんだけどさ。色々思うところは個人的にあるけど、一番感じたのは反対派は図書館にストック的役割を期待していないんだなぁ、ってこと。そんなもんは国会図書館だけでいい、という考えなのかもしれないけど、レベルは違えどどの公共図書館にも保存機能は担うべきだと思うよ。だけど実際の図書館にはこれがないから、「書店で十分」という意見まで散見されるのじゃが。書店と図書館の違いはここであって、そこんとこ図書館員なら十分認識しなきゃいけんというのに…。利用者差別に繋がると思われるだろうから「個人的意見」を強調しておくけど、大量予約の入るような本の貸出よりも、10年20年後に絶版で入手困難となった本を探しにきた利用者に資料を提供することのほうが、図書館の公共性という点で遙かに価値が高いと思う。こういう機能を市民から図書館へ求めてもらえるかどうかが、今後公共図書館が生き残れるか否かを左右するんだがな、と言いたいのだ。もちろんベストセラーの購入・貸出を強く否定はしないよ、図書館がそういう役割を担うべき地域もまだあるし、そうでなくともある意味そういうところで数字を上げて市民や役所にアピールする部分も残しておかないと、効率主義の昨今生き残れないしね(笑)。そういう多少狡猾な二面性も図書館運営には必要だと思うんだけどな。もちろん図書館の本務を忘れて数字稼ぎに走るなんて本末転倒だよ、悲しいかなそれが現状なんだけど。

 最後に指定管理者制度と民営化について。指定管理者制度導入=民営化ではないってのはちょっと書いたけど、特に収入は専ら役所からの委託料(厳密には委託契約じゃないから名目違うかも)という公共図書館の指定管理者制度は、ちょっと民営化という形態からは遠いかな、と思うのです。また、一概に指定管理者制度と言っても指定管理業務の範囲はそれぞれで、建物管理、清掃、本の装備なんかの従来から業務委託していた部分をその範囲にしているなんてケースの方が多いんじゃなかろうか。もちろん運営を全面的にというところもありますけど、まだ民営化、民営化と騒ぎにするほどの数と規模ではないのでは(その辺は、指定管理者の募集要項見たり、実際の聞き取り調査が必要になってくるんだけど、まだきちんとした調査結果は公表されていないかな?)。指定管理者制度そのものが導入後まだ日が浅く、役所と指定管理者どちらが運営のイニシアチブを取るべきかとか、問題が起こった際の責任の所在が不明確だったりしますので、この辺ももう少し熟れてきてからでないと本質的議論ができないということもあるけど。私は指定管理者の業務計画を役所が承認するという手続きがある以上、施設運営の大局的な方向性を決めるのは役所側であると考えますけど。これが純粋な民営化ではないと言っている理由ね。ただ前にも書いたけど、実際は役所の担当に方向性定めるほどの見識がない場合がほとんどだろうから、そういう意味で指定管理者制度の導入は失敗するケースが結構出てくるだろうし(例えばつらつら書いてきた「図書館とは何ぞや」が真に理解できていない担当では、指定管理者が自主的にそういう方向に持っていかない限り公共図書館は崩壊すると思われ)、でもそれだけの見識を役所側が持てるなら、もう指定管理者制度導入ではなく直営にするべきだろうということを繰り返しておきます。付け加えると、個人的には単なる人件費削減をもって指定管理者制度導入が成功、という考えではありませんので、あしからず。

 まね、いつものように暴論でしめると、TRCに全面的に任せた方がましな公共図書館の方が実は多いと思うよ、現実はね。そう言われないために各図書館はそろそろどーにかしないと、民営化賛成の意見に飲み込まれてTRCどころか公共図書館そのものの存在まで消されるかもよ。

あきひろ 2007年01月08日(月)21:48

火に油を注いでみるの間違いでふか?(と期待されてるツッコミを入れてみる

よく分からんけど、TRCの図書館ってのは良いの?俺ら素人でも分かるくらいに?

tohru 2007年01月09日(火)10:37

いやいや、火にかけた天ぷら油に水を差したようなもので。
TRCの図書館が良いか、と言われると何ともだけど、少なくとも平均的な市町村立図書館よりは良いんじゃないだろうか。近所だと、稲沢市の新図書館のカウンターがTRC受託なので、行ってみると何か分かるかも。
『ず・ぼん』11号のTRC・石井会長のインタビュー↓読むと、一応TRCが何考えているかの参考にはなるでしょう(特に委託業務のあたり)。面白すぎて、果たしてTRC全体が会長の意見通りなのかは疑問がありますけど。
http://www.pot.co.jp/zu-bon/zu-11/zu11_016-039.pdf