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くだらなくも結構リアルな作り話

 ・毎日新聞 「大阪市:中央図書館マットに広告スペース」(2006.2.17)
 (参照 共同通信「財政危機で給与明細に広告」 毎日新聞「広報誌やHPに民間企業の広告掲載へ」

 朝の出勤。公有財産の目的外使用とかで月5,000円も駐車場代を職場に払わされているというのに、駐車スペースには車の広告が印刷されている。しかも、軽自動車やコンパクトカーの宣伝ばかりで高級車は1つもない。ターゲットの財政状況を完璧に捉えているところは、さすが世界の○○○、広告にも無駄はない。
 眠い目をこすりながら館内に入る。玄関マットには出版社の名前と最近のベストセラーのタイトルが挑戦的に印刷されている。駄本がくだらなく売れるのは昔からのことだが、この本を予約しても貸出まで3年を超えようかという図書館で宣伝するのは、広告としては実によいセンスだ。図書館に複本を買えという意図では断じてないはずだが、マットを見た勘違い野郎から苦情を言われそうで気が沈む。とぼとぼと登る2階への階段にも、段差では金太郎広告がお出迎えだ。
 カウンターのPCを起動させるとデスクトップが賑やかしい。なけなしの給料に地元銀行が群がり、ボーナスでは株を買えとしつこい。お金は大事という保険屋と、お金より大事な物があると歌うサラ金の広告が並んだ時は苦笑の他なかったが。
 そういえば今日は給料日だったか。昼休み、事務室に戻ると机の引き出しに明細が乱暴に投げ込まれていた。昇進しても年収が下がっていくのだから額を見るのも嫌になるが、貰えるだけでもお慈悲を感じなければならない。明細の裏面はいつもの転職紹介企業の広告。キャリアアップではなく、年収アップしか謳っていないのは何ともシュールだ。しかし、同期が何人も辞めていったが誰一人広告通りになってはいない。公務員を辞めた奴なんて会社のお荷物にしかなれない、されど現役の公務員は社会のお荷物。どちらの道も大差はない。
 午後はホームページの更新作業。また新しいスポンサーのバナーを設置しなければならない。すでに何のページだか判別できないほどバナーが並んだページに新しいものを押し込むのは、職人の腕の見せどころだ。いっそのこと、図書館法を改正して入場や貸出に課金してくれればこんな苦労はないのだが、とタブーを口にしてみても周りはアルバイトのみ、賛同も反論も望むべくもなく、いただけたのはうるさいと言わんばかりの冷たい一瞥のみだった…

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 ………5年後ぐらいには、こんな司書が巷に溢れそうだな。
 中島らもは、広告屋というのは空いている場所を執拗に見つけだし、無理矢理広告スペースにすることで儲ける汚い商売だと自嘲気味に書いていたが、とうとう公務員もその仲間に入りそうだ。「汚い」の方向が旧態の公務員的汚さではないところに、まだ救いはありそうだが。