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では自治体側の指定管理者制度導入メリットの説明に対しどう追及するべきか

 (前エントリから続き)

 とまぁ、久しぶりに真面目に書いてしまったが、じゃあどういう観点から反対すりゃいいんだよ、と言われそうなので、自治体側が図書館への導入を推進することを想定し、その説明に対しては「こうつっこめ」を考えてみます。反対運動をされてる市民、議員、職員はもちろん、賛成派でも中立派でもその検討には必要かつ現在不十分な観点だと思います。特に議員さん必見…?

(項目)

1 (施設管理、カウンター業務等、根幹的業務でない部分に指定管理業務にする場合)通常の業務委託が可能な範囲に、わざわざ指定管理者制度を導入しなければいけない理由を追及する。

2 導入メリットの「民間のノウハウ」(人件費削減を除く)とは具体的に何を想定しているのか追及する。

3 導入メリットの「経費削減」(人件費を含む)のうち、比較対象の現状の経費算定は適切か、特に非効率な現状の運営・人員配置改善を、指定管理者制度の導入メリットに含ませていないか追及する。

4 指定管理者の評価(指定管理者決定時及び指定管理期間中の)基準はどういう想定なのかを追及する。


(解説)

 1は全体にも言えることですが、前提として業務委託より指定管理者制度の方が、自治体側も受託者側も事務量、経費ともかさむということは踏まえておくべきです。指定管理にすると、事業計画書や報告書の作成・査定、指定管理者の決定及び監督管理(する・される)、制度導入効果の整理・PR、指定管理者の評価のための事務(選定・評価委員会の運営、開催、出席)etc..が新たに、又は更に多く発生します。通常の委託として、仕様書の内容さえ充足してくれれば構わない業務であれば、あえて指定管理者制度を導入するメリットはありません。これは導入検討の大前提なのに、そういうことを認識しているという話は聞いたことがありません。敢えて指定管理者制度を導入する理由を突っ込んでください。

 2は、効率的運営だの、専門業者による専門性だのとの説明に終始するでしょう。具体的に何を効率化するのか、どういう専門性を期待しているのか、を突っ込んでください。この際、すでに全国に実例は山とある訳ですから、事前にそういう事例について十分に情報収集しておく必要はありますが。非正規で職員の司書率を上昇させたところで、それほど公共図書館に関して高度な専門性を持つ職員集団になる訳ではない、司書資格なんて所詮その程度のものだということは、一部の館を除けば実例を見れば明らかだと思います。ただし、高度なサービスを切り捨て無料貸本屋として運営するなら、専門性なんて不要です。既存の利用者受けすることをするだけなら、民間のノウハウは非常に役に立ちます。

 3は、何百万円、何千万円のコスト削減になる、と具体的数字で説明するでしょう。指定管理料の積算が正しいのかも当然ですが、もっと気にしてほしいのは現状の経費についてです。削減効果を過大にしようと水増ししているならもっての他ですが、現状があまりに無駄だらけなのではないか、無駄を省いた直営での運営と比較したらどうなるのか、という点はよく精査しなければなりません。

 例えば、既に業務委託している事業であれば、その入札は十分競争性が働いた上での経費(落札価格)なのか、指名競争入札で漫然と少数の同じ業者で入札していないか、指定管理者を地元業者に限定しないのであれば、この入札も地元に限る必要性はないので、制限なしの一般競争入札にすることで同等の経費削減ができるのではないか、という視点。岡山県立が施設管理のみを指定管理業務にしたら1,000万円の経費削減が実現、ということらしいのだが、こういう事例は指定管理者制度の前に、従前の施設管理の入札がおかしかったのではないかと勘ぐるべきです。(ただ、岡山県立は指定管理者制度未導入の施設一覧から早く抜け出したいという思いで、無理矢理施設管理のみで導入したとかしないとかという話も聞いたので、そういう戦略ならこれもありかもしれないが。)

 また、正職員が正職員でなければできない業務にのみ配置されているのか、もしかしたらカウンターでのバーコード読みを主業務としている正職員がいないか等々よく現状の職員体制を吟味してみましょう。こういうことの是正は指定管理者制度だからという次元の問題ではないはずですが、よく(敢えて?)混同して制度導入の効果に含ませてあります。ここに最大の経費削減効果があることを忘れてはいけません。委託や非正規化できる範囲をよく整理し、適正な職員配置としたことを想定した上で効果算定の比較前経費を算定するべきです。
 あ、正職員の人件費を込みで計算しているという仮定で書いたけど、この場合制度導入でこの人たちの首が切れる訳ではないので、削減額に含んでいいのかどうかは微妙かも。やはり正職員の人件費は自治体全体で測るべきでしょうね。

 反対に、明らかに正職員や勤務経験が必要な業務にまで、指定管理者による非正規職員の配置を想定しているのなら、それは堂々と正面から反論するべきです。これは指定管理業務の範囲が適切か、ということでもあります。ただ、そういう高度な業務を現状できちんとこなしてなければ全くもって意味がないのですが…

 4は、要するにその図書館をどういう図書館にしたいのか、ということを自治体側に示させるということです。来館者や貸出の数だけで評価するのなら、上記のとおり館全体を指定管理者に運営してもらうのが一番適しています。つまり、そういう図書館を目指すのか、それとも安い経費で高度な図書館サービスを実現するという世迷い言を言っているのか、判断する材料として、評価基準を示せと要求するのです。制度導入は図書館の民営化ではありません、あくまで自治体の施設として自治体がそのグランドデザインを描かなくてはいけないし、その実現のために指定管理者の評価基準を定めなければいけない、そういう制度なのです。施設の方向性まで指定管理者が決めるものではありません。その能力が自治体にないのであれば、制度導入は失敗します。まぁそれは直営でも同じ事ですけど。

 その他検討するべき項目は多々あると思いますが、とにかく比較対象となる「今」が適正か、またその現状を是正するのは指定管理者制度でなければならないのか、そして自治体は図書館をどうしたいと考えているのか、という視点は欠かせません。

 結局、指定管理者制度の導入検討とは、現状の図書館の見直しなのです。それを感情的に賛成・反対しただけでは、何も変わりません…

(更に次エントリに続く)