No.408の記事

アウトソーシングのために必要なインソースってのもあってね、

・かたつむりは電子図書館の夢をみるか 「アウトソーシングが「不可能」な業務は存在しない、が・・」
・愚智提衡而立治之至也 「「公共図書館=無料貸本屋」説雑感」

 委託なり指定管理者制度なり形態はともかく、実質的に図書館運営を包括的にアウトソーシングすることはいくらも可能になってますね、制度上は。となれば、あとはどう運営していくかという話なんですが、とりあえず目標は「よりよい(「安い」、「早い」、うまい…はないか)図書館運営」と抽象的にしておきまして、仮定話を進めてみましょう。

 で、いざ自治体が図書館運営をアウトソーシングしましょかとなった時、まず必要なのは事業を外に出す訳ですから、その業務の「仕様書」を作成しなきゃならんです。でもそんなん誰が作れます?そこいらの事務屋は一般的な契約のテクニックは持っているでしょうが、図書館勤務や図書館学修了の経験でもない限りちゃんとした図書館運営の仕様書が作れる可能性すら全くありませんね(ここで無理して事務屋が作っちゃうと、来館者や貸出の数でしか評価されない中身のない図書館が出来上がっちゃうことでしょう)。

 まぁ、最初は無難に現在、図書館にいる職員(事務か司書かは大きな違いがありますが)が実質作ることになりましょう。とすれば、とりあえずは今の事業を踏襲して、なんてことになりかねませんが、同じ事やるだけなら効用は人件費削減のみになってしまい、アウトソーシングする意味はそんだけということですね。まぁ、それこそある意味十分な効果ではあるのでしょうが、とりあえず「よりよい図書館運営」という目標には達しないと思われます(発注側の目的がそれだけということならいいのかもしれませんが、それで図書館そのものの中身がどうなるかというと…以下略)。ちなみに、この時点で自治体が「こういう図書館にしたい」という明確な目標を設定し仕様書に盛り込むことができないと、これまた単なる人件費削減にしかなりまへんので注意が必要です。(余談:最近受けさせられた職場の研修で某大の行政学のセンセに、指定管理者制度は自治体がグランドデザインを描き、指定管理者はその実現に向けた方法を提案して実行していくのが本来だが、あんたんとこはそれが全く出来てないねと指摘されたさ。あぁ、まったくその通り。)

 さて、優秀な図書館員のおかげでそれなりの仕様書ができたとして、こんどはこれを引き受ける団体を入札や公募で決定しなければいけません。こういう複雑な事業内容の契約となりますと、単純に金額の一番低いところに決定すればいいという訳にはいきませんので、大抵はプロポーザル方式的に提案内容と金額を天秤に掛けて総合的に精査し決定しなきゃいけません。まぁ、金額が一番の根拠であることは間違いないのですが、それでも格好付けるためには、各事業者の提案内容に点数付けたりするんですが、図書館運営に係る提案(しかも慣れたところだと高度で小難しそうな理論を付けて色々提案してきますね、きっと)を判断できるのは…そう、前出の優秀な図書館員ぐらいなものでしょう(ここでそういう精査を行わないということになれば…以下略)。

 やっとアウトソーシングする相手も決まり、契約(協定)も締結し、新たな体制で運営が始まりました。自治体側はやれやれ、これで面倒な手続きも終わったわいといきたいところですが、アウトソーサを放りっぱなしという訳にもいきませんね。毎月、毎年の定期事業報告を求め、定期・不定期に監査・検査・指導、そして最終的には評価をしなければなりません。もちろん、議会や市長・部長から「それらしい効果」を強く求められますからして、その作文や実際にアウトソーサにハッパを掛けて無理難題をやらせることもありましょう。しかしですね、例えばT○Cのような会社が請け負った運営に対して管理し、問題を発見して時に口出しし、最終的にその運営内容を評価できる自治体職員ってどんな人ですか?そうですね、やっぱり仕様書作れるような優秀な「元」図書館員ぐらいですね(ここでそういう管理・評価をしないということになれば…以下略)。

 さて、そんなこんなで3年なり5年の契約期間が過ぎました。また次のアウトソーサを決めなければいけませんが…あれ、例の元図書館員は?図書館で働きたいってどっか行っちゃった?うーん困ったなぁ、まぁ前回通りの仕様書でいっか、なんてことになるといずれ図書館は…以下略。

 とまぁ、ぐだぐだだらだら勝手に書きましたけど、つまり前にも同種のことを書きましたが、「専門性の高い行政事業を包括的にアウトソーシングする場合、相当高度な専門知識を持った職員(インソース)がいないと必ず失敗する」ということです。図書館だと資料収集・整理業務、直接サービス、コンピュータシステムの構築・維持管理等々、各種図書館業務全てに理論的・実践的に精通し、かつ予算や企画、広報などの事務屋の能力までも備えた「超スーパー司書」がいなければアウトソーシングなんて「話にならない」レベルのものにしかならない訳です。でもね、そんな司書がいて、図書館に勤務させずに役所で指くわえさせるぐらいなら、直営にしてその人をリーダーとして図書館で活躍させた方が「よりよい図書館」に近くなると思いませんか?それに、こんな人材は飼い殺したらすぐ出ていくだろうし、こんな人材は図書館での実務なくして育ちませんから、アウトソーシング続けるほど後継者なんて絶対育ちませんしね。

 ただし、この話の前段として、「アウトソーシングはコスト削減の手段以外に何が目的なんだよ」とか「図書館なんて無料貸本屋、専門性なんて要らなーい」とかの認識が為政者や議員や自治体や住民の大勢ではないという、当たり前だけどどんどん当たり前じゃなくなってきていることが前提であれば、ということなんですけどね。

 最後に。アウトソーシングってのは丸投げじゃ制度的にもいけない訳ですが、指定管理者や県全体のシステム開発の包括的アウトソーシング担当の経験から申しますと、はっきりいって「丸投げ」可能な相手かどうかってことも問題があります、能力的・体制的に(これが可能なら文化施設であろうとも民営化してそこに補助金入れれば済むでしょうが…)。それに足る会社や団体がどれほどあって、さらにそういう会社や団体をどう事前に見極めるのかということが非常に難しいですね、官尊民卑ではなくて客観的に。皆、最初は「あんなこと」「こんなこと」できますと心地よいことばかり言うのですが、いざ請け負うと他社や派遣業界からの派遣ばかりで体制組んで無責任な運営をしたりとか、契約書の文言を曲解したりとか、まぁ色々あります。

 結局、民に任せると官が今まで以上に大変(にならなきゃいけない)な分野はアウトソーシングしても意味がない、というとこに行き着けるかどうかなのでしょう。図書館業界が指定管理者制度や委託に反対するには、この論点が重要なのではなかろうか、と考えるのですが…以下略。誰でも簡単に事業評価できる分野(総務事務など)は、無駄に高い賃金払わなくても外に出しゃいいんですよ、その方が非正規職員の志気も上がるでしょうしね。

※こちらのCGIの不具合で冒頭のリンク元にTB出来ません、申し訳ないです。そのうち対処しようと思いつつなんですが…