No.95の記事

私が都道府県立図書館の役割にこだわる訳

 ・愚智提衡而立治之至也 「「図書館」間の機能分化(おさらい)」

 G.C.W.さんのお話は現時点で未完ですので、これはこれで続きを楽しみに待つことにして、一応私がこだわり続けている都道府県立の役割について、ちょっととっちらかしてみたいと思います。
 そもそも、なぜ私が都道府県立(以下「県立」)の役割に執着しているのかと言うと、以前「コンビニ図書デリバリーサービス廃止か?」にも少し書いたのですが、実際に県立図書館で勤務した時に「市立化(=直接サービス重視)」が進行しているのを目の当たりにしたからです。もちろん、と開き直る気はないのですが、実を言えば司書でも図書館のヘビーユーザーでもない私は、図書館で働くまで県立図書館の役割なんて真剣に考えたこともなく、ただの大きな地域図書館という認識しかありませんでした。ですから、当初は行政職員的な視点からむしろ県費で市町村立図書館を支援することに疑問を感じた程です。
 まぁ、その辺りは追々と実務的に学んでいったのですが、むしろ理論を理解するほど、勤務先の実践が理論を逸脱しかかっていることに気付いたのです。直接貸出や来館者の数にこだわり、またその数字でしか有用性を訴えられない安易な運営体制。例えばコンビニ図書デリバリーサービスの試行と廃止。特にこのコンビニについては、コンビニと図書館貸出を結びつけたのは行政職員ではなくて県図書館のベテラン司書だったところに救いがない気がしたのです。宅配サービスそのものは否定しませんが、市町村立(めんどくさいので以下「市立」)に適応するべき理論を考えなしに県立へ持ち込むのは間違いだったと思います。県内全域に図書館サービスを提供する為にどうすればよいか、特に県庁(=県立)所在地が県の南端に偏在する岐阜県では大きな課題ですが、司書であれば市立を通じたサービス展開にまず活路を見いだすべきなのに、これが不十分なまま直接貸出に走ってしまった。何故ならば、市立を通じたサービス展開は地味で目立たない、それより直接県立が出しゃばる方が褒められる、特にコンビニ活用は知事自らの提唱で日本初が大好きな人だったから…というのは勝手でもない想像ですが、私が思う問題点は、相互貸借の存在が県民にほとんど知れ渡ってない状況でこういう事を司書が進めたことと、検討段階において県庁職員から相互貸借についての話が出なかったことだと考えております。それほどに図書館サービスに対する一般人の認識は低い、その責任は県立の説明怠慢にあるのに、その責任を放棄し自ら市立化を進める。全くもって自ら首を絞めていることに気が付いていないのです。
 また、G.C.W.さんは県立と市立の機能の違いを論じるのは「日図研や図問研の関係者は「何を今更」と嘲笑」するのではと書かれているが、むしろ私はこれらの方々がどうして昨今の県立の市立化にもっと疑問を呈さないのかと思っております。岐阜もそうでしたが、県立は新しく建て替わる時に運営方針も大きく変わり、近年は多くの県でそれを機に市立を軽視した直接サービスに偏向していっていると感じるのですが、それに対して業界の人からは大きな異論が出ていないと認識しております。よもや、建物が大きくなり、所蔵資料数も格段に増え、そして貸出数も来館者数も増えたね、よかったよかった、で業界人まで済ませているのでしょうか。そんな表面上でしか評価しないのでは、図書館について認識のない県庁の連中と同列に成り下がっていることになります。少なくとも県内全ての公共図書館の統計を見て云々して欲しいのですけどねぇ…コンビニ図書デリバリーサービスを始めた時に多くの業界人がこれを評価こそすれ、県立の役割という観点からの批判的な意見がほとんど出なかったことを私は忘れません。これが、この業界の人は県立と市立の役割について結構無頓着なのだと思いだした理由なのですから。
 恐らく、県立の役割は県内全域への図書館サービスの提供であることに異論はないと思いますが、その実現方法に私は疑問があります。かつては全ての施策において市町村は県に負んぶに抱っこであった時代がありました。図書館でも県立の分館を市立の代わりに設置したり、市立図書館に資料を無償配布なんてこともあったようです。でも、近年は市町村も自立的運営を迫られ、県の施策も市町村甘やかしは通用しなくなったのです。県立も市立援助のための予算獲得は難しくなった。本当はこの転換期に県立は市立に自立を促しながら市立支援のあり方を金銭的・物的支援から転換させ、同時に県庁に対しても、図書館において市立は県立の現地機関のようなものであって、市立を通して県立の図書館サービスは展開されるという特殊性を説明し予算獲得に向かわなければならなかったのです。お飾りの教員職や行政職の館長では望むべくもない、と思われそうですが、そこで司書が出てこなくてどうするのですか。役職なくても専門職の実力を発揮して、これだから行政職は、と面前で批判してくれなきゃいつまでも役職付きませんって。これを怠ってきたから、県民も知事も県庁職員も「県立図書館も大きな無料貸本屋」という意識でしかない、だから県立が市立化していってるんですよ、と言いたい。
 国も地方自治体も財政危機の折、ますます市立単独では十分なサービスを行えなくなってきている今こそ、県立は市立への「正しい」支援により県内の図書館サービスレベル向上に努めなければならないのです。来館者への直接サービスを低下させろ、と言っているのではありません。ただ、そこに偏重しているのであれば、重点を市立支援にも置くことが必要ですと訴えておるのです。余談ですが、市立を軽視し続けると、県立の単独運営にも支障をきたし始めた時(既にそうである気もするが)に市立にしっぺ返しをくらう危険もあるのですよ。惨憺たる公共図書館の現状の中、県立も県内の市立と協同して図書館事業に当たるしか状況改善の方策はないと思うのだが、県立が目立たんとばかりに先頭に立ち始めている。県立が独走すればするほど共倒れの時が早まるだけなのに…
 もちろん市立も無料貸本屋に成り下がっていい訳ないのですが、その点は一部の良識ある人によって危惧されているものの、実は県立に対してはあまり意見がない気がするのです。でも県立の市立化は、その県内全域への影響を考えると結構深刻な問題だと思うのです。だから、私は注目されなくとも、県立の役割にこだわり続けます。